名古屋地方裁判所 昭和29年(行モ)3号 決定
申請人 野田金之丞
被申請人 名古屋市長
一、主 文
本件申立を却下する。
申立費用は申請人の負担とする。
二、理 由
申請人代理人は被申請人が昭和二十九年四日附で申請人に対してなした都市計画法第十二条、耕地整理法第二十七条に基く別紙目録記載の建物(但し建築中の未完成建物)についての「除却命令並に代執行戒告処分」による執行を申請人、被申請人間の右除却処分取消請求事件の判決確定に至る迄停止するとの裁判を求め、その理由として主張する要旨は別紙目録記載の建物(但し建築中の未完成建物、以下本件建物と称する)はもと申請人所有の建坪九坪のトタン葺平家建店舖であつたが昭和二十九年九月二日類焼により半焼し申請人において修築中のものであるところ被申請人は右半焼を奇貨として昭和二十九年九月四日附で右建物につき申請人に対し申請趣旨記載の如き除却命令並に代執行の戒告を通告してきた。しかしながら右除却命令は次の理由により違法である。即ち(1)本件建物から二軒西隣の「さん楽」飲食店は同じく類焼により半焼したに拘わらずこれに対してはその補修を認め右と同一状況下にある本件建物についてのみこれが除却を命ずることは公平を欠き違法である。(2)類焼後申請人の涙のかわかぬうちに両日を出でずしてこれが除却を命ずるとは余にも非人道的であり人権を無視した措置であつて違法である。(3)本件建物は申請人より納税の担保として各古屋国税局に差入れられており申請人はこれが保全の義務あるものであり、右建物を除却することは許されないから右除却命令はこの点においても違法である。しかして右除却命令の代執行戒告処分も相当の猶予期間を定めずしてなされたもので、行政代執行法第三条第一項に違反し無効である。叙上の如く被申請人のなした本件除却命令及びこれが代執行戒告処分は違法であるからこれが取消を求めるため訴訟を提起したが、右処分の執行によつて本件建物が撤去されるならば、たとい申請人において本案で勝訴の判決を得ても、これが原状回復に多大の費用を要するのみでなく、その間右建物でなしてきた衣類等販売の営業を停止せざるを得なくなり、これがため甚大なる物質上の損害を蒙るものなるところ、被申請人は申請人の異議申立等を無視して強引にも同年九月六日午後一時頃右代執行を強行せんとし、申請人においてやむなく任意に本件建物を取毀しその建築材の大部分を他に搬用した有様で(但し右建築材の一部は現在なをその敷地に残置しており、申請人において占有しているものである)甚しく急迫した状態にあるので申請趣旨の如き裁判を求めるため本申請に及んだというにある。
よつて按ずるに被申請人のなした本件除却命令及び代執行戒告処分が申請人主張の如く違法であり取消を免れないものかどうかの点は暫く措き、そもそも行政処分の執行停止は処分の執行によつて償うことのできない損害を生ずる虞があり且つこのことを避けるため緊急の必要があると認められる場合にのみ許されるものと解すべきところ、本件につきこれをみるに本件処分の執行に因り仮に本件建物が撤去されたとしても、後日においてこれを原状に復することは可能ばかりでなく、これによつて生じた損害は金銭で賠償できるのであるから、いずれにしても本件処分の執行に因つて償うことのできない損害を生ずるものとは認め難い。
然らば右処分の執行停止を求める本件申立はその要件を欠き却下すべきものである。
よつて申立費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 家村繁治)
(別紙目録省略)